講演1 「SDGsな投資と衛星データの可能性」

東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社 山下 隆  氏
清水建設株式会社  フロンティア開発室  宇宙開発部長 金山 秀樹 氏

講演2 「軌道上サービスのリーダーを目指して」

株式会社アストロスケール  創業者兼CEO 岡田 光信 氏

2021年3月、中国の衛星が旧ソ連の96年に事故にあった残骸と衝突した。破片は清掃する手段もないなかで地球上空を周回し、将来また新たな事故の元となる。2009年には稼働中の衛星同士が衝突した事件もある。この勉強会でもこれまでデブリについて取り上げてきた。これは今や投資家にとって理解するべき重要な環境問題のひとつだ。11月19日に開催した第5回目の勉強会は、デブリ除去の事業で急速に注目が高まっているアストロスケールの岡田氏にお話を聞くことができた。

​軌道上サービスという新しい通り組み
 岡田社長は自らの会社を次のように紹介し始めた。「私たちはロケットや衛星を使って軌道上サービスという新しい分野を目指しています」
 今宇宙はどんどん混み合い、環境の悪化は加速している、衛星の打ち上げをする国も増えているし、民間の参入も増えている。昔は衛星というと大型の通信衛星や放送衛星、気象衛星だけだったが、今はGPSやもっと小さな特定の機能を持つ衛星が一度に大量に打ち上げられている。「一方我々の生活は宇宙にとても依存しています」という岡田社長の一言に参加者はみなハッとさせられる。みな手にはGPS機能付きのスマートフォンを持ち、知らない土地についても気軽に衛星から撮影した写真をみている。「いろいろな投資銀行が2040年ぐらいまで予想している市場規模は、今は40兆円ぐらいなんですが、リスクが高まってROIが下がっています」このリスクのひとつは今日話題のデブリ問題だろう。宇宙は早くも新規参入で混み合い、これから交通管理や規制強化が必要となる。そのために岡田社長は自らの事業を「軌道上サービス」と位置付けた。

 今宇宙に飛んでいる9割がゴミだという。大きいもので36500個認識されており、小さなものは100万、何千万にも及ぶそうだ。それでも宇宙は広くなかなかぶつからなかったのだが、冒頭のように今年はいくつか事故が続いた。ぶつかると破砕し、またそれがゴミになる。
 2009年、ロシアとアメリカの衛星が衝突し、大量のデブリが発生した。今は毎月のように衝突は起きているという。実は30年以上前から国連でも「宇宙空間平和利用委員会」を設置し、100カ国メンバーとなっているが、解決のための議論は芳しくないようだ。理由は問題解決のためにかかるコストの分担で、今はゴミの9割が米国、ロシア、中国から出ているそうだが、そうすると彼ら以外のメンバーは費用は彼らが持つべきだろうと考え、その3国は「宇宙は今後みんなが使うのものなのでみんなで負担すべきだ」と考える・・・これは温暖化効果ガスなどでも同じような議論を聞いたことがあるだろう。既に近代化の過程で温暖化ガスをたくさん排出した国がもっと負担をするべきだ、という声だ。しかし気候変動と同じでいずれにせよ問題は全ての国に降りかかる。今後宇宙開発では何らかの対処が必要で、そのための手段の提供が、岡田社長が取り組んでいることだ。

​加速度的に増える衛星
 コンステレーションという新しい衛星の活用方法がある。何トンもする高機能の衛星を静止軌道まで打ち上げるにはいまだたいへんなコストがかかる。そこで小さな衛星を安価に大量に低軌道に打ち上げて、特定の効果をもたらすやり方だ。

 たとえばOneWebは6000機、Space Xは30000機。アマゾンは3000機打ち上げる計画を発表している。また中国もこれから1万8000機打ち上げるという発表をしたそうだ。これはいま活躍中の人工衛星が4300機であることを考えると今後何年間かで加速度的に衛星の数が増えることを意味する。

「これでは軌道のとりあいになります。宇宙は無限ではありません。限られた軌道をシェアしなければなりません」と岡田社長は話し、この1、2年で宇宙交通管理の議論が高まっている、述べた。これは自動車にも船にも飛行機にもある法律で、宇宙にも同じように設定しようというものだ。今はいろいろな会議体で、この議論を行なっているそうだ。そして各国、宇宙のどこに今何が飛んでいるかを調べることに力を入れているそうだ。岡田氏は「そのような中で我々は宇宙のロードサービス、故障車を直したり燃料をいれたり、どかしたりする、その専用のディーラーになろうとしています」と語った。

​宇宙のバリューチェーン
 次に岡田氏は宇宙のバリューチェーンの拡大について話をした。これまで宇宙業界は使い捨て文化だったので、バリューチェーンが短かった、という。船も飛行機も点検保守を行い長く使うことでトータルコストを下げていた。これを修理して長く使うということで新しく生まれる市場の規模は、今後15年で2.8兆円と言われているそうだ。この市場をつかんでいくための事業計画を作り、実際の取り組みを行っている。

 ではそんなアストロスケール社はいったいどのような事業を行っているのか。今、4つのビジネスセグメントを持っている。1つ目はend of life service(EOL)で、コンステレーションの何百機も打ち上げる機関が顧客層だ。一度にたくさん打ち上げると統計的に一定の割合で故障が発生する。これを除去するサービスだ。次にActive Debris Removal(ADR)は既存のゴミを取り除く仕事だ。何トンというサイズのゴミが数千個あり、それらの責任者でありこのサービスの顧客は政府だそうだ。米国、日本、ヨーロッパ、イギリスで政府がデブリを除去するというプログラムを立ち上げている。次にISSAという保守点検サービスがある。これまでは衛星が故障してもどうにもならなかったが、アストロスケールでは近くまでいって写真をとるサービスを行っている。このサービスのニーズは実は安全保障系だそうだ。認識識別できない物体があるとそれを識別してほしいという依頼になるようだ。最後はLEX、つまり寿命延長サービスだ。静止衛星の燃料がなくなり次の打ち上げようとすると300億、500億かかるそうだ。そこを小さな衛星をうちあげ、その燃料で後ろからターゲットの衛星を押し続けることで5年ぐらい寿命を延長することができるそうだ。

​実需のイメージ
   岡田社長の説明、またアストロスケールの事業モデルは、実需が明快で、技術的なところがわからない投資家でも、投資判断に進むことができるだろう。

   このマーケットの将来予想は、地上の衛星に頼る事業がもとになるが、他にも法令や代替え技術なども考慮する必要がある。そこにこのデブリの問題も避けて通れない。デブリの存在は軌道サービスの事業機会でもあり、同時にこの産業全体のリスクといえるだろう。アストロスケールでは今社員数は250名で、日本を中心に5カ国に拠点があるそうだ。社員の言語は英語、女性の比率も35%と宇宙業界の中では非常に高いという。事業以外にも、国際宇宙航行連盟の副会長や、ダボス会議の宇宙評議会の議長を担い、産業全体の発展に力をいれている。まさにこの事業領域のリーダーといえる。 

2021年3月、中国の衛星が旧ソ連の96年に事故にあった残骸と衝突した。破片は清掃する手段もないなかで地球上空を周回し、将来また新たな事故の元となる。2009年には稼働中の衛星同士が衝突した事件もある。この勉強会でもこれまでデブリについて取り上げてきた。これはいまや投資家にとって理解するべき重要な環境問題のひとつだ。2021年11月19日に開催した第5回目の勉強会は、デブリ除去の事業で急速に注目が高まっているアストロスケールの岡田氏にお話を聞くことができた。これはその後半となる。

​軌道上サービスを支える技術やルール
 岡田氏は後半技術について丁寧に説明した。軌道でデブリを除去するにはまず捕まえなければならない。それには「ランデブー&プロキシメティ・オペレーションズ」という技術が必要となる。まず宇宙にでると、どれが目指すゴミなのか見極める必要があるが、これがとても難しいそうだ。なぜならゴミも秒速7、8キロで旋回しているからだ。地上から完全に正確に場所がわかっているわけではないのに、その真後ろにつくように打ち上げなければならない。つまり、近づいてからセンサーで位置関係を捉えることになる。そしてさらに自転もしているデブリを、相対速度がゼロになるよう調整し、捕まえて下に落とすという作業を行う。捕まえ方はアームと磁石があり、その作業を自動運転で行う技術を持っている。2021年の3月にはELSA-dという実証衛星を打ち上げた。

このような新しい産業には様々なルールが必要となるが、アストロスケールはその取り組みにも関わっている。事業だけでも忙しい中、FAA(米国連邦航空局)のアドバイザリーボードの議長や、CONFERS(米国国防総省サポートによるRPO技術のルールづくりの団体)の議長を担い、ルール作りにも取り組む背景は、標準化の重要性に対する想いだ。よく日本は標準化、オープン化に苦手といわれているが、市場を作り上げていく際、もっとも重要な視点といえる。岡田氏がこの市場を選んだ理由は、この軌道サービスはこれから社会の基盤インフラになるだろうと思ったからだそうだ。「かつて日本の事業家は、何もないところに、鉄道を敷き、街をつくり、百貨店や野球場を作ってきた。そういった基盤インフラをつくることに憧れていた」と語った。

 参加者の一人が質問をした。「しかし、デブリを除去するというのは、誰がそのコストを負担すべきものだと思いますか?・・・軌道は道路と似ていると思うのです。本来は公共機関がお金をだして、使用料をとったりするものなのかなと思うのですが。政府がデブリを除去するということは始まっているようですが、例えばこれから衛星を打ち上げる人たちが保険に入ったり、自分の打ち上げたものがデブリになった時、対処できるようお金を払うという形で費用負担が進んでいくと考えたらいいのでしょうか?」これに岡田氏は「デブリ問題は今、①認識する段階、②受容するという段階、それから③各国でルールを作る段階まで来ていると思います。次は④グローバルルールにする段階です。今は保険業界が重視しています。誰がいつ壊れてもわからないわけですから、宇宙保険業界では、この議論が真っ盛りで、国の動きを待たず先に動きを見せるかもしれません」と答えた。

軌道の価値をあげる? ⁻⁻高速道路か、カーボンタックスか?--
 デブリ問題の想定される解決は“カーボンタックス”と似ているようなところがある。司会は岡田氏に「規制で、これから打ち上げをする人は必ず片付ける時の計画をたて、御社のサービスのようなものと契約をしておきなさい、という可能性はないでしょうか」と聞いた。
 すると岡田氏は、確かにそれはあるかもしれないと述べ、実はこれまで米国がデブリ除去に対して積極的ではなかったというやや意外な事実に触れた。それが2021年頃から急にデブリ対策に積極的になったこと、その理由は、米国は戦車なども衛星でコントロールしているため、頻発し始めたデブリの衝突が国防上無視できないところまできたようだ、と話した。

 また別の参加者から「衛星を長生きさせるということは、通信衛星や放送衛星を持っている企業からみたら、この契約をしたほうが事業としてうまくいくということはないのか」という指摘も出た。岡田氏はうなずきながら「多くの衛星を打ち上げてサービスを行う、“コンステレーション”を展開している事業者では、彼らの衛星の軌道が極で重なり、故障機があると衝突リスクがある。軌道を汚染させないために故障機を除去したいと考える。また彼らの衛星の寿命はだいたい5年から7年だが、寿命が来ても代替え機がタイミングよく打ち上げられないかもしれない。インターネットサービスなどでは衛星の数を減らせないので、少し寿命を伸ばしたい時がある。そんな時、このサービスを使うことでコストが安くなる場合がある」と述べた。

 別の参加者はそれらを聞いて「たとえば軌道にプライシングができれば・・・この軌道はとてもきれいな軌道です、だから保険会社としても保険料を安くできるといった考え方はないか?つまり新しいクリアな軌道を作って提供すると・・・」と逆側からみた視点を述べた。岡田氏は頷きながら聞いたのち、宇宙基本条約では、宇宙は誰でもアクセスできる、となっているので難しいだろうとのべ、またこれから参入する国からみたら、自分達が使う時になったらそういうコストを払わないといけないといわれることは不満かもしれないと述べた。それも全く、エミッションと共通する課題だ。

​投資家からみた”ナップスターモーメント”
参加者にとって、岡田氏の話は全て興味深かったが、それでも最も参考になったのは、投資家は宇宙産業に取り組む企業や事業をどのように見るべきか、という点だ。
司会は「この勉強会をはじめて今まで、宇宙開発に取り組む企業や事業の評価として、デュアル開発はどうか、とか同じ技術が何に使えるか、取り組む企業はおそらく若い企業だろうからガバナンスはどうか、収益化の目標は何年後ぐらいなのかといったことをチェックするべきかどうか議論をしてきました」と振り返り、「しかし先ほどの岡田さんのお話で、重要なこと抜けていたなあと思いました。ビジネスモデルですよね。いったいどのようなビジネスモデルを描いているのか、それが先ですよね」そうしたら次は、そのビジネスモデルは実現可能か、経営者は実現する手段を有しているのか、リスクは?ライバルは?と考えて行くことになる。・・・つまり宇宙産業であるからといって、特別なことはないということだろう。

 しかもデブリ問題は軌道で事業をする全ての事業者、国家や組織がこれから必ず意識しなければならないことであり、裾野が非常に広いビジネスだ。どんなに大変でも我々はすでに衛星に頼らない時代に戻れない。となれば、需要が高まるのはもう目の前だろう。

「結局大きいゴミはいつか衝突して爆発します。そうすると全然違う軌道に巻き散らかされてしまう。あまり自分と関係ないと思うゴミでも、(軌道上でビジネスをしている限り)除去しないといけないのです。・・・浜辺で空き缶が転がっていても気にならないかもしれませんが、それが秒速8Kとかで飛んできたらと考えると、遠くのゴミでも気にしなければなりません」
岡田氏は最後にこんなエピソードを話してくれた。「ナップスターモーメントという言葉ご存知でしょうか?98年ぐらいにナップスターというソフトウエアができて、音楽をネット上で共有できるとサービスだったのですが、99年に裁判でアウトになってなくなりました。実はそれまでは、インターネットは一部の人だけがやるものでしたが、ナップスターがでてきてからはみんながネットに繋がるようになったんです。振り返るとほとんどの現在の大型プレイヤーはその前からプレイをしていました。宇宙業界は“ナップスターモーメント”がこれからくると思っています。だから今プレイしておくことがとても大事だと思っています」

投資で成功するためにも、ナップスターモーメントより前に目をつけることが必須だろう。だから今興味をもつべきだ。今ここは?という企業や事業を理解して行くことが投資家の役割であり、きっとその中の誰かが、将来の巨大プレイヤーになるかもしれない。そのためにはより多くの事業をみて、自分で判断できるようにならなければならない、それが地球の未来と宇宙投資を考えた時、投資家の責任だといえるだろう。