講演1「Towards a Net-Zero Future」
Satelligence Head of Client Relations Nanne Tolsma 氏
講演2「Realizing a “Learning World” with Overlooking Data from Space」
株式会社Synspective 代表取締役 CEO 新井 元行 氏
8月24日、第6回宇宙投資の会を開催しました。
衛星データをバイオダイバーシティのエンゲージメントに使う事例、また日本のSARの最先端について学びました。
前回の振り返り
第5回の勉強会から第6回までの間にロシアによるウクライナ侵攻があり、ロシアが国際宇宙ステーションから撤退するという表明があった。木村教授はかつて米国とロシアの協力ではじまったISSの歴史を振り返り複雑な心中を語った。第5回で取り上げたアストロスケールはデブリ処理でますます注目されているが、この状況下でますます軌道上の安全保障に注目が高まっている。
衛星データを活用したモニタリング
最初の講師はオランダのベンチャー企業のサテリジェンスだった。世界中の熱帯雨林を監視するために衛星データを加工している。グローバルにサプライチェーンを持つ企業を顧客とし、南アフリカ、南アメリカ、東南アジア、米国などで活動をしている。そこではコーヒー、パームオイル、ココアなどが育ち出荷され、森林が減っている。それらの地域で活動する企業を顧客として情報を収集し、さらにそれらの情報は、その企業のリスクを知りたい金融機関のエンゲージメントに活用されている。
サテリジェンスはESA(欧州スペース・エージェンシー。JAXAの欧州版)やNASAが提供する無料の衛星データを用いている。これを現地の土地の保有情報と照らし合わせてサプライチェーンの先にどんなことが起きているのかを追いかけている。勉強会ではインドネシアの森林の写真を見せ、次にそれをどのように分析しているかを説明した。まずAIをもちいてどれがパームツリーで、どれがラバーツリーか分析できるように学習させる。現地のミルの位置を特定し、差分データからどの部分が収穫されたらどのように出荷されているかを特定していく。今EUではサプライチェーンにいたるまで森林破壊がないことをモニターする責任が企業に課されている。これらを分析して「この農園は問題がある。仕入れをやめるか」と言ったことを検討することができる。衛星写真はさまざまなものを用いる。熱帯雨林なので雲が邪魔をすることが多く、光学写真だけではなく、レーダー写真のほうが良い時はそちらを用いる。
森林破壊を調べる時はESAなどの無料で公開されているデータを用いているが、カーボンクレジットなどを調べたい企業の依頼で、有料データを用いることもある。それでも衛星データの入手は大変ではなく、大変なのは現地の情報の入手だそうだ。もっと現地の企業(農家)などの情報がパブリックに入手可能になることを願っている。
日本の衛星ベンチャーの活躍
次の講師は、日本のレーダー衛星のベンチャー企業であるシンスペクティブだった。シンスペクティブではサテリジェンスも利用しているレーダーを搭載した合成開口レーダー(SAR)衛星自体を作っている。主要なサービスは2つで、自社のSAR衛星が撮影したデータを販売すること、そして2つ目はサテリジェンスのようにデータをソリューションとして解析しその結果を提供するケースだ。SAR衛星はもともと安全保障面での利用が確立していた。シンスペクティブではできれば災害時に活用できる衛星データを提供したいという想いがあった。数ミリのズレも検知できるレーダー画像では、たとえば道路の異常や、水害時や土砂崩れの状況を調べることができる。建設会社や損害保険の会社と一緒に、ソリューション開発をしているそうだ。
講師は、羽田空港上空を写した写真を投影し「このように駐機場の飛行機の機種もわかる」と述べ安全保障上の優位性を述べた。また海外の事例で、鉱物を採取した後化学薬品で資源を抽出し、その時発生した水をダムにためておいて、数年に一度毒性を抜くという作業をしているそうだが、そのダムが決壊するという事故が、数年前ブラジルで発生したそうだ。数百人が亡くなったこのような事故を防ぐためにも定期的な上空からのモニターが必要だと講師は説明した。これは現在EUタクソノミで求められている水や土壌の汚染に対するサプライチェーンのモニタリングにも役立つだろう。
自社でSAR衛星を持つシンスペクティブの事業は大変だが、現在2機衛星が軌道上にあり、2024年末には衛星を6機にする予定だそうだ。そうすると日時観測が可能となる。2026年には30機体制にし、2時間ごとに世界中どこでも見えるようにしたいと考えている。講師はシンスペクティブの事業に着手するまでは、大学で再生エネルギーで途上国のGDP向上を測る研究に携わり、日本のスタートアップ事業でタンザニアで電化事業に関わった。帰国後は3・11後の南三陸町の復興支援に関わった。今シンスペクティブが平時はインフラ等で用いることができ、災害が起きた時役立つ衛星ネットワークを構築できるよう取り組んでいるそうだ。
将来を背負う技術をもつベンチャーへの投資を
2022年現在世界で、レーダー衛星を商用で展開できるのは数カ国しかない。したがって商用でレーダー衛星のデータを提供できるのもまだ数社しかないそうだ。シンスペクティブはその貴重な一社だ。もともとJAXAの研究プロジェクトから生まれたベンチャーだが、継続して衛星を打ち上げるために投資費用がかかる衛星ビジネスの経営は非常に難しい。日本でもベンチャーキャピタルは以前より拡大してきたが、未だ米国等と比べると差があり、宇宙関連事業を手掛けるベンチャーはみな「海外投資家にもアプローチをしていく必要がある」という。しかし将来を背負う技術をもつベンチャーは、国内の投資家ももっと支えていく価値があるだろう。