その1に続き、日本企業で衛星データを用いて生物多様性の対応を行っている企業を取り上げていく。
日清食品ホールディングズ株式会社(以下、日清食品)も、自社製品のサプライヤーに対し、不二製油と同じような取り組みを行っている。ここでもやはりターゲットは“パーム油”だ。日清は主力商品の即席めんでも使われている。そこでやはりホームページに「持続可能な調達」として自社の取り組みを開示している。日清食品が環境に配慮した調達を始めたのは2007年で、この年は「グリーン調達基本方針を策定したが、これを2017年に人権への配慮も加えて今の「持続可能な調達方針」にしたそうだ。その方針のもと、サプライヤーであるパームオイルの農園で熱帯雨林と生態系の破壊、泥炭地火災による温室効果ガスの排出、農園労働者の人権侵害が起きていないかをモニタリングしている。そして持続可能な調達が行えるよう、油脂加工メーカーとエンゲージメントを行い、搾油工場や農園の包括的な支援を進めている。具体的には2030年に向けて、農園までのトレーサビリティを確保し、苦情処理メカニズムを整備し、高リスク地域を特定することを目指している。
日清食品は“農園までのトレーサビリティ”の確保に、米環境問題シンクタンクのWorld Resources Institute (WRI) が提供する衛星モニタリングツールを利用している。2014年から、WRIが提供しているこのツールでは、WRIだけでなく、米GoogleやUNEPなど40ほどの団体が協力している。つまり衛星データだけでなく、これらの団体が様々なデータを提供しているため、モニタリングを行うことができる。(WRIの無料ツールである「Global Forrest Watch」の使い方はこちら https://youtu.be/s4HhoSbOgUc )日清食品もこのようなツールを用いて、農園がある地域を上空からみることはできるが、問題は自社のサプライチェーンが“どこ”なのかを特定することだ。日清食品では、2030年に向けて、先端で最終的に自社に納品される油を生産している農園が、どこなのかを特定しようとしているそうだ。
日清食品は、森林破壊・泥炭地開発・搾取ゼロ(NDPD=No Deforestation、No Peat、No Exploitation)の活動を支持している。同時に2030年には、持続可能であると判断できるパーム油の調達を、全社で100%とすることを目指している。国内だけについては2025年にゼロを達成することが目標だ。これらのターゲットは、森林破壊ゼロを目指す投資家側の滑動のタイミングと符合している。
Finance for Biodiversityという投資家の活動があり、2023/4/28現在126団体が署名している。署名した金融機関はそれぞれ森林破壊ゼロを目指し、企業とエンゲージメントを行い、インパクトを評価し、目標を設定しそれを開示しなければならない。署名金融機関の中には自社のポートフォリオで森林破壊につながる企業をゼロとする宣言をしているところもある。つまり、2030年までに自社のサプライヤーが森林破壊をしていないと説明できなければ投資対象から除外されるかもしれない、ということだ。
日清食品が今掲げている目標を達成できれば、署名機関の投資家からも、投資対象から除外される心配はない。ホームページをみると、現地の農園にアンケートや、ダイヤログを行って、実際にラウンドテーブルなどを開催した記録が開示されている。しかしそれらが本当に効力を発揮したのかどうかは、空から見るのが一目瞭然だ。サプライヤーに至るまで森林破壊が行われていないことを証明するためには、衛星データは最適の手段だといえるだろう。