EUでは、企業のコーポレートガバナンスや人権、労働環境の改善が持続可能性を高めるとして、2022年2月23日にサプライチェーンのデューデリジェンス指令を提案した。これは大企業に対して、自社だけではなくサプライチェーンの活動が人権や環境持続可能性の基準に準拠するように義務付けるものだ。そして2023年5月に欧州議会で次の手続きが行われる予定だが、この動きにあわせ、欧州企業の中にはサプライチェーンの生物多様性に関わるモニタリング活動が活発化した。具体的にはパームオイルやゴムなど多くの製品に関わる一次産業では、そのサプライヤーの状況をモニターし、違法に森林を破壊していないかなどを、衛星データを活用して調べるようになった。当会でも2022年8月に開催した勉強会で、オランダのサテリジェンスに登壇いただき、EUの企業の状況を取り上げた。当時はまだ国内では「衛星データを用いてまで調べる必要があることなのか」というムードがあった。しかしそれから半年以上たち、現在日本でもいくつかの企業はインドネシアの森林などのサプライヤーをモニターしたり、現地の農家と対話を行なっているようだ。
不二製油は、その名の通り植物性油脂、業務用チョコレート、大豆加工素材などを提供しており、原材料としてパーム油に頼っている。これは東南アジアに植生しているものだが、多くの産業で用いられているため農家の拡大によって従来の森林が破壊されたり、強制労働、児童労働などの問題が指摘されてきた。不二製油はこの調達を今後もサステナブルに行うための独自の取り組みを同社のホームページに掲載している。
その中で「衛星写真による森林破壊防止のモニタリングの定期的実施と、その成果としてサプライチェーンん改善活動やグリーンバンスリストの対応を推進」という記載がある。同社はインドネシア、マレーシアなどでサプライチェーン上で発生する森林破壊を特定し検証するため、2020年からNPOのEarthqualizerより衛星写真データの提供を受けているそうだ。Earthqualizerはなんと半月に一度レポートを提供しており、それをもとに不二製油に寄せられた森林破壊に関する申し立てに対し検証を行っているという。
不二製油は、パーム油を扱う企業として「責任あるパーム油調達方針」を掲げている。この中で、ステークホルダーから提起された不二製油のサプライチェーン上に環境や人権問題について取り上げるために、全てのサプライヤーを特定しモニターしている。そこで1400以上のサプライヤーのリストも開示している。不二製油が衛星データで詳細を把握できるのは、このように農家や製油工場のトレーサビリティを実現しているためだ。各農家は非常に小さく、もし末端の農家までのトレーサビリティが確立していなければ、衛星データでそれらを追いかけ、日々の状況をモニターすることは難しいだろう。2023年4月現在ホームページに掲載されている情報によると、確認を行うことができたのはサプライチェーン上の83%であるとなっていた。
このように衛星データだけでサプライチェーンの状況をモニターすることはできないが、衛星データの力は非常に大きいようだ。不二製油は上記のホームページで、「サプライヤーとの解決策の検討だけでなく、NGOなどのステークホルダーとのコミュニケーションにも役立っている」と述べている。衛星データが地上のトレーサビリティーの向上に役立つことは間違いないと言える。